ニュースレター~会員からのメッセージ~

会員からのメッセージを掲載いたします。
なお、ニュースレター(当協会の会員向け会報誌)からの転用については、
役職や本文中のデータ等は原則として各ニュースレター発刊時点のものです。

≪目次≫

【2021年2月号】三菱UFJ国際投信株式会社 代田 秀雄氏「日本の投資信託市場に対する悲観と楽観」

【2021年5月号】ニッセイアセットマネジメント株式会社 上原 秀信氏「顧客本位の業務運営」と信頼できるIFAとの出会い

【2022年1月号】株式会社財コンサルティング 稲葉 充氏「金融事業者が提供できるものとは何だろうか?」


  • 【2021年2月号】日本の投資信託市場に対する悲観と楽観
代田 秀雄氏
三菱UFJ国際投信株式会社
常務取締役

日本の投資信託市場の成長性に関する見方には、悲観論と楽観論が交錯している。悲観論は、伝統的な投資信託の販売会社である銀行・証券会社の投資信託の販売低下と投資信託の残高の低迷である。ETFを除く公募株式投信の残高は、2015年以降60兆円台で横ばいとなっている。この間、投資信託の設定額から解約・償還額を引いた資金流出入額はプラスであるが、配当金の払出額を加味すると、5年で 10兆円程度のマイナスになる。残高が横ばいなのは、時価増によるものである。販売会社の収入源の販売手数料はノーロード化が進み、信託報酬(代行手数料)率も低下傾向にあり、販売会社にとって投資信託を販売することの経済的な魅力度は低下している。昨年来のラップなどの投資一任サービス提供者の広がりは、販売会社が販売手数料や代行手数料に代えて新たに残高フィーのビジネスを指向し、ファイナンシャル・プランナー化を図ろうとしていることに他ならない。

一方、楽観論は、つみたてなどによって投資信託を始める資産形成層の急拡大である。2018年に日本証券業協会が行った「証券投資に関する全国調査」では 2 0歳以上の国民の投資信託保有率が 9 .2パーセントであり、投資信託保有者数が 1,000万人にも満たないという結果であった。2018年にはつみたて NISA制度がスタートし、口座数は 2年 9ヶ月で 2 7 4万人に達している。年間約 1 0 0万人がつみたて NI SAを始めたことになる。つみたて NISAは、2014年に NISA制度が創設された 4年後から始まっていることから、年間約100万人のつみたて NISA利用開始者の大層が投信初心者と考えられる。また 2017年に加入対象者を拡大した iDeCoにおいても、2016年3月に 25万人だった加入者が 2020年3月には 155万人と 4年で約6倍に急拡大している。1951年の証券投資信託法施行後70年の歴史で 1,000万人弱にまで利用者を拡大してきた投資信託が、わずか 3年で 300万人のつみたて NISA新規利用者を獲得できているという事実は、日本の資産運用業において明るい兆しである。

米国での MMFを含めた投資信託残高は 2020年6月時点で 1,253兆円である。このうち IRAと 401Kといった税制優遇制度の残高が 8 7 5兆円となっており、投資信託の 7割を占めている。I RAは 1 9 7 4年に制度を開始し、1981年に対象者が拡大し資金流入が増加した。また 401Kは 1980年に開始された。いずれの制度も 40年の時を経て、現在の規模にまで拡大したものである。日本の iDeCoやつみたて NISAはまだ始まったばかりである。こういった制度の後押しで、日本における資産形成を着実に進めたい。また日本でも IRAのような制度創設を期待したい。

対面での投資一任サービスについては、お客さまから任されたご資金について最適な資産配分とファンド選択を行うことだけが本質ではない。非対面の事業者との差別化として、お客さまの全財産のうちいくらを運用にまわせるかのアドバイスや、市場の急変時の適切なアドバイスの提供が重要である。投信会社として、このような環境変化にしっかりと対応してまいりたい。


  • 【2021年5月号】「顧客本位の業務運営」と信頼できるIFAとの出会い
上原 秀信氏
ニッセイアセットマネジメント株式会社
常務取締役

「顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)」(以下、FD)という概念は、金融庁が2014事務年度金融モニタリング基本方針で初めて明らかにし、2017年3月末、「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下、本原則)として公表した。2021年1月には本原則が改訂され、特に、「(原則6)顧客にふさわしいサービスの提供」では、販売業者は、①一層、顧客のライフプランを踏まえて提案を行うこと、②提案は、投資信託、保険、外貨預金など業法の枠を超えて類似商品や代替商品と必ず比較しながら行うこと、③販売後は、適切なフォローアップを行うことなど、(注)が大幅に改訂されている。

改訂に先立つ2020年3月の金融審議会第28回ワーキンググループでの議論において、「リスク性金融商品を購入する際、他の金融商品との比較説明を受けていないと回答した者は、全体の約7割」、「リスク性金融商品の購入後、フォロー・アドバイスを受けていない、又は、ほとんど受けていないと回答した者は、全体の約8割」という顧客意識の調査結果が報告されている。この結果を受けて(注)が改訂されたものと推定される。2021年2月に公表された金融庁の「安定的な資産形成に向けた金融事業者の取組み状況」によると、本原則を採択している事業者の数は2020年12月末時点で2,098社。うち1,238社が自主的なKPI*1を公表し、534社が共通KPIを公表するなど、FDを重視した取組みは浸透してきている。
*1 Key Performance Indicatorの略で、目標を達成する上で、その達成度合いを計測し監視するための定量的な指標のこと

一方で、本原則の取組方針や自主的なKPIについて、「知っている」または「聞いたことがある」顧客は約3割しかおらず、その取組みを認知していても、実際に参考にして金融商品を購入する顧客は約2割にとどまっている。「取組方針やKPIの内容が難しい」ことがその最大の理由だ(2019年10月の金融審議会第25回ワーキンググループ資料より)。ただ足元ではKPIを公表するIFA*2も増えてきており、その内容やFDに対する自らの真摯な取組みを分かり易く説明してもらうことも期待できる。
*2 Independent Financial Advisorの略で、独立系のファイナンシャル・アドバイザーのこと。独立かつ中立的な視点で資産運用をサポートする専門家

今後は、超高齢化社会と認知症への対応がますます重要となってくるはずだ。厚生労働省のデータによると、2025年には認知症の人は約700万人前後、即ち65歳以上高齢者の約5人に1人と推計されている。高齢者の資産運用や管理、相続に関して、親子世代を跨って家族に寄り添い、顧客の人生の伴走者たるIFAに対する社会的な期待は確実に高まっていくに違いない。人間力と専門知識に富み、真に信頼できるIFAに出会い相談したいものだ。
※「NEWSLETTER Vol.5(2021年5月)」より一部改変


  • 【2022年1月号】「金融事業者が提供できるものとは何だろうか?」
稲葉 充氏
株式会社 財コンサルティング
代表取締役会長

金融事業者が提供できるものが「金融商品」だけであれば、早晩、ほとんどの金融事業者はAIにとってかわられるだろう。AIは不誠実な金融事業者のように自分の利益だけを追い求めない。さらにAIは不誠実な金融事業者のように情報・知識の分析を怠らない。

AIは利用者にとっては非常に便利な代物である。ただし【正しい知識や情報が取得できたとしても、正しい行動が伴わなければ、資産形成は成就しない】ことから、AIは正しい情報や知識を提供できるとしても、それを利用する利用者の行動まで関与することができないため、そこに限界がある。
一方で、昨今「顧客本位」「顧客の意向把握」という言葉が飛び交うが、お客様が本当に求めるものは一体何なのかをどれほどの金融事業者が把握できているのだろうか。資産形成において多くのお客様の求めるものは「お金を増やすこと」である。しかしながらほとんどの場合、「なぜお金を増やしたいのか」という明確なゴールをお客様自体が持ち合わせていない。たとえば遠い将来不安の解消のために、なんとなく資金を増やしたいと感覚的に考え、増やしたい金額も非常に曖昧である。
最近ではゴールベースという言葉をよく耳にするが「資産運用すること」強いては「お金を増やすこと」だけをゴールに設定しているケースを多く見受けるが、ゴールの本質はそこではない。
抽象的、感覚的・曖昧なゴールでは来るべき大暴落時にお客様が欲するゴールに導くことはできない。なぜならば、暴落時にはお客様の資産が大きく目減りする。ゴールを必達しようとすれば当然のことながら暴落する資産にさらなる大切な資金を投下する必要がある。余程の支え合いの関係がなければ到底、お客様の行動に関与することはできない。リスクのある金融商品を提供する限り、最悪の事態にお客様の行動に関与できなければ、結局、どんな金融商品を提供していても資産運用は成就しない。
*支え合いの関係とは、愛する親族間での関係とよく似ている。相手のために何かをしてあげたいと「お互い」が思い合う関係である。
しかしながらゴールの設定は非常に難しい。「なぜお金を増やしたいのか」というゴールをお客様自身が普段考え慣れしていないがゆえに、ゴールそのものを誤認や誤解をされている場合がある。また想定外の事態と遭遇し、お客様自身が描いているゴールと異なるゴールが誕生する場合もある。さらには、お客様自身の問題ではなく、昨今のコロナ禍のように社会環境あるいは金融情勢や政治情勢により社会通念や家計・資産状況が変化する場合もある。時間の経過とともに目まぐるしくお客様の思考や外部環境が変容することにより、ゴール自体も変化するのである。
だからこそ「なぜお金を増やしたいのか」というゴールを定期的にかつ継続的に「考える場所」が必要となる。
「なぜお金を増やしたいのか」「増やしたい理由はどこにあるのか」をお客様と長期間にわたる話し合いを重ねてお客様自身に考えさせる場所を提供すること、そしてそのことがいかに重要であるかをお客様に認識させることができてはじめて真にお客様自身が欲する具体的・数値化されたゴールが誕生する。こうして作り上げられたゴールがあるからこそ、お客様の行動をゴールに向けて導くことができ、資産形成を成就させることができるのである。私たち金融事業者の「金融商品の提供を通じてお客様の暮らしを豊かにする」という使命と責務がまさにここにあるといえる。